学会について

本学会の実績とポリシー

【実績】

日本高気圧環境・潜水医学会は, 平成18年に日本高気圧環境医学会の学会名に潜水医学を加えたが, 昭和41年(1966年)の発足以来, 半世紀に渡り, 高気圧酸素治療及び再圧治療のもたらす治療効果を学会活動や学術雑誌の刊行などにより臨床の場で具体化して来た。

すなわち減圧症や空気(ガス)塞栓症, 急性一酸化炭素中毒, ガス壊疽などに対する不可欠な救命救急的な治療法として, また様々な組織や臓器における血行障害や虚血に起因する低酸素状態の主体的あるいは補助的療法として, また白血球の酸素依存性殺菌能を賦活化することにより骨髄炎などの難治性感染症の切り札として, さらに糖尿病性壊疽を始めとする挫滅創や放射線障害などの創傷治癒を促進し, 悪性脳腫瘍などの放射線照射を増感するなど, 広範な医療分野の発展と普及に貢献して来た(ホームページのcommittee report, 資料集を参照)。

【安全潜水】

国際的安全潜水推進団体(DAN, divers alert network)の日本支部として(財)日本海洋レジャー安全・振興協会(DAN JAPAN)を平成4年(1992年)に日本高気圧環境・潜水医学会の指導の元に立ち上げた(本学会代表理事がDAN運営委員長を兼任)。

減圧障害(減圧症や動脈性空気ガス塞栓症)や潜水に関する様々な問題の相談を受け付ける機関(本部:東京医科歯科大学附属病院高気圧治療部)であり, 潜水医学の知識と経験を有する医師によるアドバイスを適宜, 遅滞なく受けられることで緊急性を要する減圧障害などを発生場所に近い再圧治療施設(チャンバーを保有し, かつ本学会の高気圧酸素治療専門医や高気圧酸素治療認定技師がいるなど)を紹介できるようになった。

またスキューバーダイビングに理解のある医師を募り, 電話連絡先や診療科, 受け付け時間を記し, 診察や医療相談を受け付けるDD NET (diving doctors net)を組織し, 現在, 海外のダイビング・スポットを含めて300名以上の医師の協力が得られている。

おもにレジャーダイバーやインストラクターからなるDAN Japan会員(現在約18000名。年会費あり)にはDAN JAPAN会報(年3回など2万部。平成20年より「Alert Divers」に改名)を発送し, 潜水医学に精通した医師からのアドバイス, 潜水関係者などの貴重な体験談などを分かり易く盛り込み, 減圧症や潜水事故の予防に貢献している。

またDAN Japanによる安全潜水講習会, 社会スポーツセンター(財団法人)主催の安全潜水講演会, 日本バリアフリーダイビング協会(NPO法人)による障害者潜水などに本学会から講師を派遣している。

一方, 混合ガスを使ったテクニカルダイビングがレジャーダイバーにも導入され, また閉鎖式潜水装置(リブリーザー)がネット販売されるなど通常のSCUBA(圧縮空気による開放式潜水)では考えられない深・深度潜水が行えるようになったが, 複雑な装置の不具合による致命的なトラブルが聞かれている。

“窒素酔い”や“減圧時間”を少なくしたナイトロックス(32%O2, 68%N2など)による潜水が普及しつつあるが安全性の検証が必要であり, また業者による体験ダイビングで観光客がパニックに陥り, 急浮上や溺水で受診する事例が増えており, 行政指導が必要とされる。

戦後, SCUBAやフーカー(圧縮空気をホースで送る)による潜水漁業が各地で行われ, 九州では本学会員により調査と指導が行われて来たが, 沖縄などでは漁業組合に加入していないなど減圧症の予防対策が行われ難く, 減圧症に罹患してもフカシ(自己水中再圧)が横行し, 今尚, 不適切な初期治療から重症化するケースがあり, 法的規制を含めた行政指導が望まれる。また伝統的な素潜り漁である海女(海士)には本学会員による調査が行われ, 空気ガス塞栓症などの予防をアドバイスしている。

【災害・産業医学】

かつて炭坑火災は, 熱傷に急性CO中毒を合併し, 一度に大勢が被災するなど重篤な身体的, 神経精神的後遺症を残す産業災害であったが, 世界的心臓外科の権威でもあった和田寿郎教授がHBOを行い, その成果を日本初の国際学会(1969年, 札幌)で口演し, 労働災害(労災)に対するHBO適応の先鞭を切った。

阪神淡路大震災では挫滅症候群(筋組織の挫滅による二次性腎不全)により多くの人命が失われたが, HBOは, 挫滅創や筋区画症候群に対する治療効果が実証されており, また東日本大震災では溺死者が多かったが避難者が車中で急性CO中毒になるなどHBOの救命的意義は大きく, 切断の回避など機能的メリットも無視できない。

今日, 本邦ではこのような災害や救急に対応できるHBO施設が減少し, とくに関西(大阪大学), 中部(名古屋大学), 北九州(産業医大)の多人数用チャンバーが近年, 閉鎖されたなど, HBO過疎地域における人々の健康と人命にかかわる問題であり, 本学会は適切な行政指導を要望している。

産業革命の頃, トンネルや橋桁の潜函工法(caisson)が開発され, 多くの作業員が潜函病(減圧症)で倒れたが, 膨大な臨床経験から酸素再圧療法(再圧療法)が開発され, 今日では作業の機械化や労務管理などにより潜函病は激減している。一方, 潜水作業はマンパワーに頼るところが多く, 潜水作業員が下請けなどで過酷な労働を強いられるが, 労災として適切な再圧療法を受けることが少ないと言われている。
業務で潜水するダイバーは労働安全衛生法で規制されているが, 昭和47年施行の規則であり, 水深50m以上の空気潜水が許容され, その減圧表(米海軍減圧表より減圧時間がかなり短い)も提示されていることから人命に関わる問題である。

本邦では再圧療法を受けられるチャンバーの保有施設が少ないことなどから業者が一人用チャンバーを保有し, 空気による再圧療法が許容されているが安全性と治療効果に問題がある。本学会は, 潜水士における安全潜水の抜本的な規則の改正を行政に要望している。

【安全性】

高気圧酸素治療及び再圧治療では, 支障となるような副作用はほとんど無く, 圧外傷(耳管通気不全など)や閉所恐怖症の多くは対処可能である。また日本高気圧環境・潜水医学会が定める安全基準の遵守により酸素中毒(活性酸素の副作用)を回避できるが, 肺嚢腫などで緊張性気胸が報告されている。

高気圧酸素治療装置(チャンバー)内の火災(爆発)事故は本邦で過去5件(内1件は第2種装置), いずれも酸素加圧下で発生しているが, 現在, 第2種装置(多人数用チャンバー)では安全性の高い空気加圧を義務づけられているほか, 安全協会(本学会)では第1種装置(一人用チャンバー)においても空気加圧を勧めている(安全協会ニュースを参照)。

【治療施設】

平成22年には623施設が高気圧酸素治療装置(チャンバー)を保有し, 第2種(多人数用)51台, 第1種(一人用)720台が設置され, この中, 173施設が日本高気圧環境・潜水医学会の安全協会に登録され, 日本高気圧環境・潜水医学会の会員である高気圧酸素治療専門医(以下, 専門医)218名, 高気圧酸素治療技師(以下, 認定技師)220名が治療に携わっている。
平成22年度より「高気圧治療認定病院」を指定し, 本学会の安全協会に加入し, かつ専門医と認定技師が治療に携わっている38施設が登録されている。

【医療情報の提供】

日本高気圧環境・潜水医学会のホームページには, 高気圧酸素治療及び再圧治療の治療指針(committee report, 総論)と資料集(国内外の文献紹介, 各論, 作成中)をPDFとして情報提供し, 本学会誌掲載論文の著者と演題(平成14年より)を載せ, 学術総会のproceedingsを掲載する予定である(平成22年度より)。

また臨床上の問題や安全管理, 保険適応などに関する質問は電子メールで受付け, 速やかに返信し, 数年ごとにQ & Aとして安全協会ニュース(冊子)に内容を公開している。

【組織と規模】

日本高気圧環境・潜水医学会は, 現在(平成22年度), 会員数1276名(医師・歯科医師565名, 技士・看護師・潜水医学関係者など711名)を擁し, 学術総会を年一回, 首都圏と地方交互に, 高気圧酸素治療及び再圧治療の実績がある大学や主要な病院が持ち回りで開催し, 社員総会で主要な議題を討議, 決定している。

本学会関連の地方会は, 北海道地区, 関東地区, 中国・四国地区, 九州地区などで活動している。理事会(理事8名, 監事2名, 幹事2名)を年に複数回開催し, 評議委員会(現在75名)を学術総会などの折に開催し, 運営協議を重ねている。平成3年から安全協会(会員173施設;平成22年度)を, 平成18年から技術部会(会員658名;平成22年度)を設立し, それぞれの立場から高気圧酸素治療及び再圧治療の発展と普及に貢献できるようにした。

また外保連(外科系学会社会保険委員会連合)に加わり(平成18年より), 厚労省に対し高気圧酸素治療及び再圧治療に関する診療報酬の適正化や適応疾患の更新などの交渉ができる唯一の団体として活動している。

本年度(平成22年)から高気圧酸素治療の保険適応(救急的適応)に壊死性筋膜炎及び壊疽性筋膜炎, コンパートメント症候群又は圧挫創症候群が追加された。

【資格制度】

日本高気圧環境・潜水医学会では, 平成12年に発足した高気圧酸素治療管理医制度を廃止し, 平成21年度から専門医制度に格上げした。専門医試験を年1回, 学術総会会場(11月)で実施し, 過去9年間の受験者198名であったが, 合格者は155 名で合格率は平均78.3%である。

受験資格は学会正会員であって高気圧酸素治療及び再圧治療施設での実務経験3年以上, 研修講座を受講し, 本学会などで口演発表をしていることなどで, 主要な学会の専門医または認定医であること(指定あり)など高気圧酸素治療及び再圧治療に精通していて最善の治療を行い, 安全に管理できる臨床医を育成している。

また専門医を補佐し, 高気圧酸素治療装置(チャンバー)を安全に運用・操作できる者として平成11年より認定技師を育成し, 資格現有者は220名を数える。認定技師は臨床工学士あるいは看護師の資格を有し, 高気圧酸素治療施設での実務経験2年以上, 講習会(7月)の基礎編・臨床編の受講を受けたうえで受験資格を取得できる。過去11年間の受験者数は433名であり, 合格者は279名で合格率は平均64.4%であった。

日本高気圧環境・潜水医学会で取得する資格(専門医及び認定技師)は, 半世紀に及ぶ臨床実績や学術的活動, 及び現在1200余名の会員を擁する高気圧酸素治療分野における唯一の学術団体として厚労省の意向に基いて本学会の責任において施行する試験や資格審査により認められたものであり, 本学会はその資格の維持と向上に尽力する義務と責任を負っている。

【課題と理念】

日本高気圧環境・潜水医学会では, 医学的根拠に基づいた医療(evidence based medicine; EBM)をめざし, 高気圧酸素治療及び再圧治療における適応疾患を追加, 追証する必要があり, 本学会員各位のさらなる努力により研究成果を集積する必要がある。高気圧酸素治療及び再圧治療の副作用は少ないが, 疾患の多様化や薬剤の汎用など医学的観点から, また先端医療機器の持ち込みや第1種装置(一人用チャンバー)における安全性など機器管理上の観点から十分な対策を講じる必要がある。  

本邦では高気圧酸素治療施設の本学会への加入率は未だ極めて低く, 医学的及び安全性の見地から問題があり, 高気圧酸素治療及び再圧治療の発展の足枷となっており, 行政を動かす必要がある。

日本高気圧環境・潜水医学会で扱う高気圧酸素治療とは, 2.0 絶対気圧(ATA)以上, 純酸素(100% O2)吸入60分以上の保険診療であり, いわゆる酸素カプセル(1.3 ATA, 40% O2以下)などEBMの乏しい民間療法とは別次元のものである。

高気圧酸素治療及び再圧治療は, 限られた疾患のみの特殊療法にとどまらず, 生命の根源である酸素を扱うことから多くの治療分野で “医療水準を底上げし得る” 不朽の治療法と考えている。日本高気圧環境・潜水医学会はこの理念に基づきアカデミックな啓蒙活動とグローバルな普及運動を国際学会と協調しながら行っている。