T-Q1:輸液のボトルや輸液のチューブは、どの位の圧力迄大丈夫でしょうか。

A1:輸液は最近色々な形状のボトルがございます。ビニールのソフトバッグの場合はそのままご利用頂いて大丈夫です。それから一番問題に思っておりますのは、ガラス瓶の従来からあるタイプの輸液剤で、それに従来ですとエアーが抜けるガラス棒が入っていた訳ですが、最近のガラス瓶はそれが無いものが大部分でございまして、これが一番問題でございます。チャンバー内では、そのままではご使用にならないで下さい。それからプラスチックのやや固いボトル、銘柄で言いますと大塚のラクテックですと、ぶら下げた状態で一番上に太いエアー針を確実に通気する様な形で刺して頂ければ、それは問題ありません。それからシミズ製薬が扱っておりますソリタが最近ややソフトなハードボトルを使っていますが、あれは一般の室内で使った場合には通気針が不要な訳ですが、高気圧酸素治療室に入れる場合は通気針を刺さなければなりません。それも太くて確実に通気する形で刺す必要があります。それからガラス瓶に戻りますが、通気管(ガラス管)の入っているガラス瓶のボトルでしたら、逆さまにぶら下げた状態で通気管の中に確実に通気針を刺して頂いて、それから輸液セットを刺せばそれで通常は大丈夫です。後はガラス管の無い輸液ビンの場合は輸液剤の水面の上まで出る特殊な通気針を用意して使わないと、うまくいきません。輸液の容器に関して私共が注意することはその程度です。加圧でチューブやセットがつぶれることはありません。

        (平成6年2月)


T-Q2:加圧中の耳の痛みについて、特に最近高齢者が多くなって耳抜きをやっても途中で痛くて、或いは終わった後に難聴を訴える高齢者がいますが、実際に加圧中の指導はいかがでしょうか。

A2:今のご質問の内容から考えますと恐らくは多分滲出性中耳炎を起こしていると思います。しかし滲出性中耳炎は治療を中止すれば多くの場合は、耳鼻科で処置をして頂くことで解決しますし、鼓膜穿刺をしたり中の滲出液を取ったりしなくても、かなりの患者さんが自然に吸収して治りますが、ただ、そういうことを起こしてから治すより起こさない方がいいものですから、できるだけコミュニケーションをよく取って頂いて、くどいようですが教えて上げて、耳抜きの要領を覚えてもらうことが大切です。特に耳のトラブルを起こしますのは、私の経験では加圧を始めて大体 0.3気圧位迄の最初が一番頻度が高いのですね。減圧の時は中耳腔の方が圧力が高くなりますから、押されて自然に開放するから、減圧の時はどちらかと言えば耳のトラブルは少ない筈です。最初の0.3 気圧迄の所をうまく切り抜ける事が必要ですね。上気道炎、鼻風邪を引いている時とかそういう時に、耳管の開口部が炎症で少し腫れたりしていると狭窄を起こしたりしていることがあり、やはり耳抜きが難しいものですから、そういった時にどう対応するかということが大切です。自分自身が患者さんと一緒に高い圧力へ入る時に、もしも私が風邪を引いていると、風邪を引くのは緊張が足りないと職員に小言を言っていたのですが、実は私も時々内緒で風邪を引くものですから、そういう時には塩酸ナファゾリンここでは市販名を申し上げてよいかと思いますが、プリビナとかそういった薬剤の点鼻が私自身には効果がありました。これもご参考になるかも知れません。ただしこれを使って頂く時は、やはり主治医の先生とお打合せの上でないと、いろいろ他の問題を起こす可能性もありますので、お気をつけ頂きたいと思います。

        (平成6年2月)


T-Q3:減圧の時の方が耳の痛みを訴える患者がいますが、どうしてでしょうか。

A3:先程から申し上げている加圧する時の頻度に比べれば、減圧する時の方が耳に関するトラブルの頻度は低いということで、絶対に無いということを私が申し上げている訳ではありません。例えば耳管の中で、狭窄か何か、言って見れば弁状の様な狭窄で空気が入る時は入るけれども出る時は出にくいという様な、そういう狭窄があれば、貴方のおっしゃる様に今度は減圧の時だって耳のトラブルを起こしますよね。私は緊急の場合は耳の検査をしているよりも命の方が問題な場合もありますから、緊急の場合はその限りではございませんが、時間を若干掛けることができる時は、先ず耳鼻科で耳管の通気をしてもらって、耳管が開放しているかどうかという事を確認してもらってから、治療を始めることを原則としておりました。

(平成6年2月)


T-Q4:この耳の痛みに対するご質問が非常に多くて、最終的には鼓膜穿刺ということが出てくるようですが、鼓膜穿刺は簡単でしょうか。                           

A4:私ども耳鼻科がございませんので、意識障害が強い各種の脳梗塞ですとか、そういう場合に頭痛のためだろうと思うのですが、治療開始後に体動が激しくなったりすることがございます。そういう場合に丁度いいあんばいに、私共の隣に市立の総合病院がありますので、そちらの耳鼻科の先生に往診してもらって鼓膜を診て頂いて、時々は鼓膜切開をしていただきます。専門的な知識があれば至って容易な処置のようでございますが、私自身は経験ありません。

(平成6年2月)


T-5:イレウスの治療はイレウス管を挿入したままでよいでしょうか。 

5:私共もイレウスの症例はそれ程多く無いのですが、イレウス管が入っておればそのイレウス管を開放状態で、そのまま入れております。それから胃管にしても同様でございます。但し中心静脈栄養を併用している様なケースに関しては中心静脈カテーテルは、可能であればヘパリンロックにするようにしております。

        (平成6年2月)


-Q6:これはちょっと意味が良くわからないのですが、当院の装置で緊急用水槽が設置されておりますが、本当に事故が発生し散水した際、患者さんを安全に救命し得るでしょうか。                               

A6:緊急用水槽とは水のタンクだと思いますが、第1種装置、第2種装置等、装置によって違う訳でございまして、安全基準では固定して設置する第1種装置にはこれは付けて欲しい、移動式のものについては付けることが望ましい、という規定を設けているかと存じます。第2種装置の場合には、これは一定の条件を満たす所謂スプリンクラーを付けることを明記しております。第2種装置、大型装置の場合は、高圧空気で水が押し出される構造になりますので、まず問題はございません。正確には記憶しておりませんが(米国の例として)看護婦さん1人と患者さんが5〜6人入っていた、アメリカのある古い大型装置の場合の火事の事故の例ですが、スプリンクラーを作動させて、大事に至らず、全員怪我もせずに無事に救命することができた事故の報告が、雑誌にも掲載されている事例がございます。しかし乍ら第1種装置の場合に水のタンクが付けてある時、もしも純酸素加圧でありますと、その水のタンクからどうやって装置の中へ水を吹き出させるかが、私は多分問題だろうと思います。純酸素加圧する装置で別にスプリンクラーといいますか、水を吹き出させるため別に圧縮空気を用意しておられるかどうか、もしもそのスプリンクラーから吹き出させる水を酸素で装置の中へ吹き出させるようになっておりますと、これは全く問題は別でございます。従ってこの質問の装置が、第1種なのか第2種なのかわかりませんが、第2種大型装置の場合は圧縮空気で吹き出される構造になっておりますので有効でございますし、火災を大事に至らずくい止めた報告もございます。わが国では残念乍ら事故を生じた第2種大型装置では、当時スプリンクラーがなく、全員が死亡した例があります。小型装置の場合には、構造を伺わないとちょっと私も的確なご返事ができかねます。

 高気圧酸素治療装置ではありませんが、圧気工法による減圧タンクでの事故が、昭和44年に隅田川の所でございました。それを私が見聞したのですが、作業員が水の中に遺体で浮かんでいた訳ですけれども、死因は後で聞きますと、酸欠というふうに聞きました。

        (平成6年2月)   


T-Q7:高気圧酸素治療を行うに当たって患者さん及びご家族への説明と承諾について、どの程度に行う必要があるでしょうか。

A7:先程お話しした様に患者さんとご家族への説明は少なくとも、安全基準に書いてあります分については、杓子定規なご説明ではなく、それぞれの患者さんに応じて充分に理解して頂けるようにご説明を賜りたい、と考えております。つまり第一は、「大変物が燃え易い所へ貴方ご自身が入られることになるよ」と言う酸素の支燃性の強いことについての説明で、今一つはやはり色々な物が危ないから、持ってお入りにならないようにご説明頂くことが必要でございます。この点については充分親切にご説明を頂く、また本人が意識がない、その他で理解ができないのであれば、ご家族とか付添いの方々にも説明して頂かなければなりませんし。いずれにしても皆様方ご自身でやはり点検を充分やって頂くということが必要でございます。

                                                  (平成6年2月)                           


T-Q8:管理医が常時指導し監督するというのは中小病院では中々不可能です。外来、手術、検査、或いは出張等があり常時高気圧酸素治療の患者に接することができないのですが。                       

A8:私しか返事ができるものは無いのではないかと思います。偽らざる状況についての、どうしたらよいかというご相談だと思います。しかし乍ら、先程も申し上げましたように、これは色々な危険を伴う治療でございます。毎日毎日が安全に行われておりますので、ついその危険を忘れがちではございますが、中で火事が起こらなくても中枢神経系の酸素中毒だって起こるかも知れません。その他色々な事故が起こる危険性を常に伴っておりますので、やはりお医者さんの目の届かないところで、看護婦さん或いは臨床工学技士さんにお任せに成りっぱなしでおやりになるということについては、医師としての倫理の立場から申し上げても問題があるのではないかというように考えております。申し上げ方が失礼に当たるかも知れませんが、これはやはり医療行為であり、医療である以上医師の監督の下で行って頂くということが基本的な、そして踏み外すことができない原則であるようにご理解頂きたいと、私は考えております。

        (平成6年2月)


T-Q9:つい慣れて来ますと技士さんの方が上手いから、任せておけばよいじゃないかという気になるのでございますけれども、やはり最終責任はドクターでございまして、医師が指示をして監督をしながらやらないと、やはり医療行為とは、そういうものだという認識をして頂きたい、という質問です。

A9:昨年1229日に那珂湊で起きました事故は、装置の操作、管理に関してはベテランの看護婦さんで、治療を受けられた患者さんは、看護婦さんが体の点検をしようとした時に拒絶したそうでございます。事故を起こした時の治療回数は59回目の治療でございまして、当然その患者さんと、その看護婦さんの間には、ある一定の人間関係が成立していた訳でございまして、「私は何も持っていない、大丈夫だ」とおっしゃったので、看護婦さんもそれ以上強くは言えなかったようなムードの中で治療が始まった、とこういう状況のように私は関係者から聞いております。私は看護婦さんがおやりになるのも、臨床工学技士の方がおやりになるのも医師の指示の下でおやりになれば結構だと思いますが、もしもお医者さんの代わりに看護婦さんが身体検査をされたのであれば、これが医師の指示の下に行われる場合には患者さんが拒絶した場合は「今日はこの方は点検をさせてくれませんが、それでも治療を始めて宜しいでしょうか」という確認を主治医にとってこそ、その医師の指示を受けた看護婦さんが取るべき行為ではなかったかと思うのであります。そのまま、59回目の治療で患者もベテランなので本人は持っていないというし、1229日で、その患者さんの治療を終われば、今年はすべての治療が終わるのでというムードの中で患者さんが強く何も持っていない、とおっしゃっているので始めてしまったという、これが私は怖い訳ですね。ですからやはり看護婦さんは是非先生に「今日はこの方は点検をさせてくれないので、それでもやって宜しいでしょうか」という確認を取って頂かなければならなかったであろうと、私個人では思っております。そういう意味で指示されてどなたかに実行させる様にする事は結構ですが、その際に看護婦さんや技士さんの方が全部責任を被ってしまうのではなく、指示を受けてやる以上、その報告をして、事後の処置をどうすべきか指示を仰ぐべきではないかと考えております。

        (平成6年2月)


T-10:学会事務局内に治療、安全等に関する相談窓口の常設をお願いしたい、というコメントがあるのですが、いかがでしょう。                   

10:学会としては安全基準にお示ししている訳でして、この安全基準に100%則って治療して頂ければ、まず私は事故は起こらないだろうと考えております。事実今日申し上げた4回の事故は、すべてこの安全基準を大幅に踏み外したために起こった事故でございます。従ってこの学会の事務局等、何処かに安全の問題に対する相談窓口を、とおっしゃることもわかりますが、先程申し上げましたように、窓口を設けなくても始終電話が掛かってくる訳です。技士さん方がお困りになって、お医者さんから掛かってくることは殆どございませんが、技士さんからは始終掛かってくる訳ですから相談窓口かも知れませんが、しかし実際は電話の向こうとこちらのやり取りでございますから、現実にはなかなか実態を把握できないものにお答えしなければならない場合もある訳でございます。私は先生が医者としての責任において行う医療行為である以上、先生方が安全について充分に管理して頂くのでなければならないと思っています。学会自体にその相談窓口を常設するということがどういうことなのか、その結果学会の常設の委員会が、それは大丈夫だといって事故が起きれば、それは学会の窓口の責任ではないか、ということになるのかも知れませんが、そういうことはちょっと私としては医療機関の医療責任を超えた問題になるような気がしますが、そういうご提案の趣旨が、もしもされる先生方がいらっしゃれば、どういうご趣旨なのか承って考えたいと思います。                                                                   

        (平成6年2月)


-11:これは多分技士さんからでしょうが、最近レスピレーターや各種のモニター装置がついている装置が販売されているけれども、安全性については如何でしょうか、という質問です。                                   

11:これは恐らく第1種小型装置に附属しているレスピレーター或いはその他の附属医療機器の意味だと存じますけれども、そのメーカーが作っております取扱説明書に、それらの使用方法について具体的な規定といいますか、こうやって使って頂きたい、このようにして頂きたいということが取扱説明書に書いてあると思います。それに従って100%忠実に従って使って頂く場合は私は、まず大丈夫であろうと考えております。しかし乍ら特に第1種装置の中でお使い頂くレスピレーターで、麻酔の気管内チューブにレスピレーターが接続されたり或いは気管カニューレの所にレスピレーターをくっつけたりしてお使い頂く場合には患者さんが無意識に首を振ったり、或いは何か動いた時にその装着してあった筈のレスピレーターが、気管内チューブや気管カニューレから外れたり、或いは気管内チューブが曲がってしまったり、ということがありますとこれは大変でございます。従ってそういう点にも、もしもそういう物をお使いの場合は治療しております間は、職員の皆さんは手が出せ無い訳でございますから、その点そういう問題が生じることを充分予め覚悟の上で使って頂かないといけないだろうと私は考えております。

        (平成6年2月) 


-12:“安全基準”を勉強して頂ければご相談頂くようなことは、あまり無いのではないかと思います。ただここに、こういう質問がありまして、例えばペースメーカーを埋め込んでいるけれども、そういう患者さんを入れていいかどうか、という質問が来ています。多分これは大分悩まれるのではないかという感じがします。                   

12:体に埋め込んだペースメーカーは、多くの形式は大丈夫でございます。しかし物に依っては耐圧性に問題があったりして心配なのかも知れないという物もあるかも知れません。従って一応は問題が生じそうな時にはメーカー或いは代理店に、ご確認になって耐圧性能があるかどうかということを、お問い合わせ頂くことも一法かと思いますが、実はペースメーカー取扱店は、恐らくその耐圧性能なんかは考えていないと思います。しかし構造から考えまして多くの形式は先ず大丈夫と申し上げて間違い無いと思っております。しかし体外式のペースメーカーはこれは別でございます。                         
   (平成6年2月)


-13:高気圧酸素治療装置においてコンピューター制御を含め、何らかの自動化システムの採用されている現状がありますが、第1種と第2種とではそれぞれ性質上若干の相違があると思いますが、現在の自動化システムが平均的に適正であるかどうか、行き過ぎていないか、医療機関の実務関係者の方々のご意見を伺いたいと思います。                                               

T-A13:コンピューター化を装備した、私としての基本的な考え方だけ申し上げておきたいと思います。私が第2種装置を昭和44年に、最初の大型装置を作りました時かなり大幅な遠隔制御、それからプログラム制御といった方式を採り入れた訳でございますが、これは人間の手で制御しておるよりも、より精度の高い制御ができることを目的として導入した訳でございます。従ってコンピューター制御は今は色々な制御方式があるかと存じますが、これは我々が手を抜くために導入したのではございません。人間が、手動で制御しているより精度の高い制御ができることを目的として導入致しましたので、自動制御で動いております時も、操作に従事する職員が自分が意図した通り機械が動いているかどうかは、常時監視してもらわなければならないことは当然でございます。コンピューター制御をさせたので自動でプログラムによって動くので、後はどこかお茶でも飲みにいって終わる頃に帰ってくればいい、という意味で私はこういった制御を導入したつもりは毛頭ございませんので、その点だけ予め申し上げたいと思います。で実際にそういった装置を使って長年私に付き合ってくれました実務者としてのN技士さんから「親方は大変迷惑な物を作ってくれた」と言う感想があるのではないかと思いますので、それを伺いたいと思います。(医師)

 圧力の制御に関しては、僕等が実際に手動でやる場合でしたら、排気、吸気のコントロールはかなり難しいのですが、これが自動でやると、かなり綺麗な圧力が保持されるのです。そのことは逆に自動になっておれば他に目が行く訳です。すなわち患者さんの監視とかです。ですからコンピューター化されたということは、非常にいいことだと思います。要するに余分といいますか、余った時間は患者さんに目も届きますし、監視盤などいろいろ見なければいけないのですが、現実は余裕をもって操作できます。いろいろ煩わしさはありますが、圧力制御とか中の環境の温度とか、色々な制御に関しては僕等ではなかなか難しい面がありますがコンピューターは僕等以上しっかりやってくれます。(技士)

 私の隣にいるので遠慮して言えないのかも知れませんが、もう一つだけ申し上げておきたいのは、色々な制御方式で、いわば操作する人の手間が掛からないように考えて作られますが、これはメーカーの方には誤解されると後で恨まれますけれども、機械のことでございますから、何時何処で突然いうことを聞かなくなるか、或いはソッポ向くか、これはわからない訳でございまして、これまでちゃんとコンピューターがいうことを聞いてくれたので、今日も大丈夫、明日も大丈夫という訳にはいきません。また電源だって切れればコンピューターはそのまま永久の眠りに就きますし、バックアップの無停電装置がありましても、時間的な限界もございます。そういう意味で仮にそういった自動制御に乗っけても、先程N技士さんが言ったように、これは信頼しすぎずに、やはり常に思った目的通り動いてくれることを見ていて頂かなければならない、そこまでコンピューターは面倒をみてくれない、ということだけお忘れ頂かないようにお願い致したいと思います。(医師)

        (平成6年2月)


T-14:耳抜きの方法であるバルサルバ法でございますが、これをやらせていると患者さんの顔面が非常に赤くなって、苦しそうで脳血管に影響が無いか、教えていただけますでしょうか。                

14:私自身は昭和41年から平成2年で病院を定年退職するまでに約8万例前後の治療を管理したことになるのではないかと思いますけれども、バルサルバ法のために何か患者さんに、お話しの脳梗塞とか、そういった事故のようなことを起こした経験はございません。ですからこれもやはり私はお医者なり、或いは直接治療を管理する医師の方々と患者さんとの信頼関係というか、 我々のいうことを素直に受け取って貰えるような形でお話しして頂いて、耳抜きの方法も教えて頂くことが必要だろうと思います。そういう意味で私のもとで仕事をして頂いてる、人柄のよい技士さんがいてくれましたので、患者さんとのコミュニケーションも非常に上手くいって、私は喜んでおった訳でございます。

        (平成6年2月)


-Q1:第1種装置(純酸素加圧タイプ)で紙オムツは使ってよいでしょうか。また、布オムツの場合、市販のオムツカバーを使ってもよいでしょうか。

A1:結論を先に言いますと、両方とも使用可能です。ただし、市販のオムツカバーはそのほとんどがビニール製品ですから、装置内の体動などによるマットとの摩擦、装置内に吹送される乾燥した酸素ガスとの摩擦などによってオムツカバーからなにがしかの静電気の発生を免れえません。したがって、治療装置本体および患者自体を完全・確実に接地(アース)し発生する静電気を逃がして装置および患者の帯電を防止して静電気が蓄積されて着火のエネルギーとなることを完全に阻止することが是非必要なことであります。

        (平成6年7月)

 高気圧酸素治療用の専門治療着の絵を入れます。


3-Q2:着衣は綿100%でなければいけないでしょうか。また、酸素加圧・空気加圧による違いはあるでしょうか。

A2:確かに、着衣は綿100%であることが望ましいのですが、これは綿ならば静電気が生じにくいから安全であるという意味ではありません。静電気の発生には、材質、摩擦の強さ、湿度、温度などが関係し、また発生した静電気から火花が生じて火種となりえるかどうかは、蓄積される静電気の量によります。したがって、まず装置の静電気の蓄積を防止することが大切であります。静電気の蓄積による装置の帯電を防止するためには、治療装置はもとより、患者の体そのものも完全・確実に接地(アース)しなければなりません。また、静電気の発生には、着衣の繊維の吸湿性・保湿性も関与します。同じ条件の下では、湿度の高い場合ほど発生する静電気は小さくなります。したがって、綿は繊維が細く、吸湿性が良いため保湿性にとみ、発生する静電気の値はほかの繊維類に比較して低く、比較的安全であるということになります。

        (平成6年7月)


-Q3:入歯を装着したままで良いでしょうか。

A3:意識状態が完全であれば、入歯の装着自体には特に問題となることはありません。しかし意識障害や見当識障害があったり、例えば入歯の装着不良の高齢者などで、治療中に入歯が外れ、誤嚥した場合など、特に患者一人だけを収容する第1種装置では、即座の対応が不可能となる場合も考えられます。

        (平成6年7月)


3-Q4:尿道カテーテル、採尿バックを装着したままで良いでしょうか。

A4:尿道カテーテルを着用したままで高気圧酸素治療を行ってもかまいません。ただしバルーンは、装置内部の圧力の変化による影響を避けるため、空気など気体によらず、生理食塩水や蒸留水など液体によって膨らませるようにします。また、採尿バックも使用してかまいませんが、内部の狭い第1種治療装置の場合膀胱と採尿バックとの落差に注意し、採尿バックから膀胱へ尿の逆流を防止するよう配慮が必要です。

        (平成6年7月)


3-Q5:酸素加圧と空気加圧との危険度および治療効果にどのような差異があるでしょうか。

A5:酸素加圧の場合も、空気加圧の場合も、高分圧酸素に伴う危険性には差がないと考えなければなりません。仮に「不注意に持ち込まれた懐炉などによる火災の発生」を例にとれば、酸素加圧の方が当然危険度が高いと考えられがちですが、酸素加圧、空気加圧いずれの場合も危険度には差異はありません。圧縮空気の酸素分圧は気圧に比例して上昇することは明らかです。また、両者の治療効果について、加圧前に装置内部を酸素で十分換気しないで直接加圧した第1種装置と正しく装着されたマスクによって適正な酸素流量を維持・投与しながら加圧された第2種装置とどちらにより治療効果があがるか、考えてみるまでもないことです。 

        (平成6年7月)


3-6:装置内での感染予防及び消毒はどうしたらよいでしょうか。

6:一般に、高分圧酸素には細菌の増殖を抑制する作用がありますから、通常は特に装置内部を消毒する必要はありませんが、装置内が患者の吐瀉物で汚染された場合などは水または塩化ベンゼトニウム(ハイアミン水)で十分清拭して乾燥させます。梅毒または結核に対してはグルコン酸クロルヘキシジン液(ヒビテン水)で、B型肝炎やその他の感染症に対してはグルタルアルデハイド液(サイデックス水)で十分清拭して乾燥させます。

 (平成6年7月)


4-Q1:空気加圧の場合、吸入酸素流量の設定をどの位にするのがよいのでしょうか。 

A1:高気圧酸素治療の場合、いずれの気圧においても吸入する酸素の濃度はほぼ100%であることが必要です。マスクの特性はそれぞれのメーカーによって異なり、酸素中毒の予防のためどれだけ流量を上げても、ある値以上には酸素濃度が上昇しないように設計された型のものもあります。そのためには使用する前に必ず、どれだけの流量を流すと吸入酸素濃度が何%となるかという使用するマスクの特性をカタログなどで調べておきます。

        (平成7年2月)


4-Q2:第1種装置(純酸素加圧タイプ)の場合、湿潤器を用いて純酸素を呼吸するより湿度が低いと思われますが、肺に対する影響や注意点はいかがでしょうか。

A2:治療中、装置内の湿度は、患者の呼気中の水分や不感蒸泄、発汗などによって上昇しますから、治療時間内(1時間30分前後)では支障はないと考えられます。しかし、咽頭の不快感、頻繁な空咳などの症状がみられた場合には、要注意です。

        (平成7年2月)


4-Q3: HBO治療すると咳や痰の排出が多くなりますが、治療中(特に減圧時)の注意や予防法はいかがでしょうか。         

A3:治療中、第1種装置の場合は装置内の湿度、第2種装置の場合はマスクなどで吸入する酸素の加湿が不足すると気道が乾燥、刺激されることになります。同時に気道内に分泌された粘液の水分の蒸発が促進され、粘度を増すことになります。また気道内の繊毛の運動も障害され、細気管支内に粘液が痰として溜まりやすくなります。したがって、一定時間の経過した治療の終了時に咳や痰の排出が多くなると考えられます。対策として、治療中、十分に加湿した酸素を吸入させる配慮が必要です。

        (平成7年2月)


4-Q4:気管挿管チューブでカフの取扱い注意点はどんなものでしょうか。また、カフに蒸留水を入れた場合の注意点はいかがでしょうか。  

4:環境気圧の変化にともなう膨らませた気管内挿管用チューブのカフに生じる現象を、大気圧環境下、加圧時、高気圧環境下、および減圧時と分けて考えてみます。加圧が行われる前、カフは大気圧環境下で空気によって適正に膨らまされているとします。装置内環境気圧が徐々に上昇される加圧時、カフ内の空気は圧縮されその容積が減少するためカフと気管内壁との間に隙間を生じるようになります。ここでカフ内へ空気を補充してカフの膨らみを適正にし直しますと、加圧治療の間呼吸管理を支障無く続けることができます。しかし、このままの状態で減圧を開始しますと、カフ内の空気は徐々に膨張するため気管内壁を圧迫することとなります。この場合、カフの膨らみ方が適正となるよう内の空気を徐々に抜いてやればよいわけですが、この操作は第2種装置の場合は可能であっても、第1種装置の場合は不可能です。一般に、液体は環境気圧が変化してもその容積はほとんど変化しません。したがってカフを滅菌蒸留水や生理食塩水によって膨らませればよいことになります。しかし、カフ内に蒸留水などを注入してカフを膨らませる場合、カフ内圧が陽圧になり過ぎ、気管内壁の圧迫が続くと、気管粘膜や気管壁の損傷(圧挫傷)や壊死を引き起こすことになりますから注意が必要です。

        (平成7年2月)


4-Q6:ドレナージ管の注意点はいかがでしょうか。

A6:貯留液の排出は、通常、ドレナージ管によって落差や低圧吸引装置によって行われます。落差による排出液の場合は治療中の装置内においても排液に必要な落差が維持できれば、ドレナージ管は病室における場合と同様の管理で維持できますが、この場合ビニールバックなどの「排液溜め」は完全密閉か、開放となっていることが必要です。「排液溜め」の中に空気が残存していると、減圧時に排液の逆流を起こすことがあります。また、低圧吸引装置が接続されている場合は、高気圧酸素治療中、必要とされる陰圧を維持できる落差吸引とするか、ドレナージ管を鉗子などで完全に密閉閉鎖する方法へ変更します。

        (平成7年2月)


4-Q7:第1種装置で重度の熱傷患者の治療が行えるでしようか。また、第1種装置での治療限度はいかがでしょうか。              

A7:「重度の」の内容が不明ですが、第1種装置で治療を行うことが「できる症例」として回答します。すなわち患者の呼吸・循環動態を中心としたいわゆる一般状態が安定し、耳管機能が正常で、ベッドサイドの医師による管理が常時必要ではない症例であれば第1種装置でも治療は一応可能でしょう。しかし、こうした症例では当然輪液管理が行われ、輸液剤、別途投与の必要な薬剤の継続投与も行われ、患者管理の方法などもケースバイケースで、一概にはお答えできません。また、治療限界についても、すでに述べました事項から判断してください。

        (平成7年2月)


5-Q1:耳鼻科的疾患の既往歴のない患者が数回の高気圧酸素治療後、強い耳閉感を訴え、“滲出性中耳炎”と診断されました。この滲出性中耳炎は高気圧酸素治療と関係がありますでしょうか。

A1:滲出性中耳炎と診断された症状は、高気圧酸素治療による中耳圧外傷の症状と考えることが妥当でしょう。高気圧酸素治療を受け、耳鼻咽喉科の医師が全経過を管理した名古屋大学の耳鼻咽喉科疾患症例 898例(突発性難聴 771例、特発性難聴39例、他の感音難聴20例、顔面神経麻痺4例、小耳症術後57例、その他 7例)について、高気圧酸素治療開始前から鼓膜穿孔を認めた耳を除く1737耳のうち577耳に発生した中耳圧外傷の分類、障害度と頻度を表1(柳田.1994)に示します。

  質問の症例は3度に属すると思われます。液貯留が高度で排液処理を要する場合もありますが、高気圧酸素治療による中耳圧外傷はほとんど全例、一連の治療終了までに回復する一過性の障害で、また内耳障害は発生しませんでした(柳田.1994)。詳細は文献をご参照下さい。

  表1.高気圧酸素治療による中耳圧外傷の分類、

       障害度と頻度(柳田)

分類             障害度                 耳数  (%)            

0度 自覚症状だけで他覚所見なし          309  (53%)

1度 鼓膜の充血                           109  (19%)

2度 鼓膜の充血と軽度の出血               16  ( 3%)

3度 鼓膜の高度の出血または鼓室の液貯留  127  (22%)

4度 血鼓室(鼓室血腫)                   16  ( 3%)

5度 鼓膜の穿孔                       0  ( 0%)

[文  献]

1)柳田則之:耳気圧外傷の基礎とその臨床.日本耳鼻咽喉科学会第95回総会宿題報告. 名鉄局印刷, 名古屋, 1994.

        (平成7年7月)


5-Q2:突発性難聴は、日本高気圧環境医学会『高気圧酸素治療の安全基準』では救急的適応疾患に分類され、社会保険診療報酬点数表では非救急的な高気圧酸素治療の例示疾患に含まれています。救急的、非救急的と区分が分かれているのは何故でしょうか。

A2:1993年までの22年間に、発症後14日以内に来院した突発性難聴症例1526(1515)の名古屋大学における経験を要約して、難聴が軽度および中等度で発症後7日以内の症例では、ビタミンB群、代謝賦活剤および血管拡張剤の3者併用の基本治療によって聴力を回復する場合が多いので、第7病日を過ぎても聴力回復を認めない場合に高気圧酸素治療を併用するが、高度難聴では基本治療のほか、直ちに高気圧酸素治療を併用すると柳田(1994)は述べています。しかし経験の少なかった初期には、発症後、できるだけ早期から高気圧酸素治療を行うべきであると考えられていたため、昭和49年の『安全基準』の改正時、救急的適応に加えられました。

  一方、社会保険診療における救急的適応の診療報酬は第1種装置(小型)の場合には5000点、第2種装置(大型)の場合には6000点で、閉鎖循環式全身麻酔にほぼ匹敵する点数が算定されていることにも示されますように、社会保険診療における救急的適応は治療前、治療中および治療後を通じて極めて高度な呼吸・循環・代謝などの集中的全身管理を必要とする重症疾患を対象とする適応です。突発性難聴は感音性聴力損失のほかに異常はなく、したがって前記の集中的全身管理を要しない疾患として、社会保険診療においては非救急的適応に区分されています。

  ただし平成7年に予定している『安全基準』の改正においては、質問にみられるような疑義を解消するため、『安全基準』においても突発性難聴は非救急的適応に区分する予定でおります。

[文  献]

1)柳田則之:突発性難聴に対する高気圧酸素治療の適応と限界. 日本高気圧環境医学会第29回総会特別講演(抄録).日本高気圧環境医学会雑誌29:16,1994.

        (平成7年7月)


5-Q3:高気圧酸素治療中、耳痛が続いている場合に適当な対策はありますでしょうか。
また耳痛のため高気圧酸素治療を中止するときの判断基準はありますでしょうか。

A3:耳管の狭窄または閉塞によって中耳腔と外界の均圧が障害されている場合は、環境気圧の昇降中、通常は特に加圧中に著明な耳痛を生じます。表1に記載しましたように、この耳痛は中耳圧外傷の0度に属する障害です。

  耳痛を予防するためには、高気圧酸素治療を予定した患者について、治療開始前に必ず耳管通気を行って耳管の開通を確認するとともに、もし狭窄または閉塞があれば拡張を図らなければなりません。また舌根部を軟口蓋に密着させて耳管咽頭口に接する口蓋帆張筋と口蓋帆挙筋とを運動させることによって耳管を緩徐に開くフレンツェル法Frenzel maneuver 、或いは水または唾液の嚥下によって耳管を開く自己通気法など、いわゆる“耳抜き”を患者に習得させなければなりません。バルサルバ法 Valsalva maneuverは耳管の自己通気法として広く行われていますが、鼻と口を閉じて強く怒嘖させて一挙に耳管を開放するため、中耳腔圧の過激な上昇によって正円窓を損傷する危険が指摘されていますので注意を要します。耳痛は加圧開始から0.3 0.4kgfGに達するまでの間に自覚されることが多いから、耳痛の予防のための“耳抜き”は加圧開始とともに繰返して行わせなければなりません。鼻炎などの鼻閉に対しては塩酸ナファゾリンまたは塩酸オキシメタゾリンなど局所血管収縮薬の0.05% 液の点鼻の有効な場合が多いです。意識のない患者の中には予防的に鼓膜穿刺または鼓膜小切開を必要とする場合もあります。

  耳痛を訴えた場合は、数分間、加圧を停止して、水または唾液を嚥下させ、或いは前記のフレンツェル法を行わせて耳管の開放を図ります。耳管の開放が不可能な場合、加圧中であれば0.10.2kgf/G程度の減圧を行って中耳腔圧を環境気圧より高くすれば、中耳腔内の空気の膨張によって耳管が開放されます。稀ではありますが減圧中に耳痛を発生した場合は、逆に多少の加圧によって解決できる場合が多いです。ただし一旦、耳痛が発生すれば耳管開放後も耳痛が残存するため、耳管が開いたと自覚できない場合も稀ではありません。したがって耳痛については予防が必要です。

  耳痛のため高気圧酸素治療を中止する特別の判断基準はありません。

        (平成7年7月)


5-Q4:高気圧酸素治療中、尿意と排尿および便意と排便の頻度は増加しますでしょうか。

A4:22年間の9万3千件の自験例において高気圧酸素治療中、尿意と排尿および便意と排便の頻度が増加した経験も、そのために困惑した経験もございません。

  尿の産生は糸球体における濾過機能と尿細管における再吸収機能の両者によって行われます。動脈圧が正常であれば合目的的な血漿と血球の自動分離機構が機能し、物理的な濾過を営む糸球体へは血漿成分の多い血液が供給され、酸素消費の大きい再吸収を営む尿細管へは血球成分の多い血液が供給されていることに加えて、高分圧酸素吸入は動脈圧には影響しませんから、高気圧酸素治療が尿産生に変動を惹起することはないと思われます。ただし低下していた動脈圧が高気圧酸素治療によって正常化した場合、或いは低酸素症による腎機能不全が高気圧酸素治療によって改善された場合などで、それまでの乏尿によって生体に水分過剰が存在すれば、障害されていた自動分離機構が機能し始めた後は、過剰な水分を排泄するために濾過量が再吸収量を上廻って、尿産生が一過性に増加する場合はありえます。しかし質問の尿意と排尿については、恐らく第1種装置で治療を受ける患者の場合と思われ、一定時間の間、排尿できない密閉空間に拘束されることに対する不安が尿意を催す要因になっているのではないでしょうか。

  一方、消化管内のガスは加圧とともに圧縮されますから、一般的には加圧の間および一定圧保持の間は便意と排便の頻度は減少する場合が多いです。しかし減圧の開始とともに消化管内のガスは膨張し始め、これが蠕動を刺激して便意を催す原因になる場合はありえます。しかしこの場合も心理的要因が大きいと思われます。

  特に第1種装置の場合は、患者のあらゆる不安を解消するため事前に意志の十分な疎通を図り、患者と医師、看護婦および臨床工学技士など治療に関与する医療職員との間に信頼関係を確立することが必要で、この人間関係が成立している限り治療開始直前に確実に排尿と排便を行わせておけば、通常の条件の高気圧酸素治療の場合、特に問題にはなりません。

        (平成7年7月)


5-Q5:脳梗塞に対する高気圧酸素治療の効果判定は、どの時点で行えばよろしいでしょうか。また脳梗塞の患者の高気圧酸素治療の直前と直後の頭部CT所見に差異はありますでしょうか。

A5:高気圧酸素治療は慢性期の脳梗塞には全く無効ですから、質問の脳梗塞は急性期の脳梗塞と理解します。急性期脳梗塞に対する奏効機序は1) 高分圧酸素による脳血流量の減少が頭蓋内圧を低下させ、 2) 梗塞周辺の可逆的病変部への血流量の減少を最少限に止め、 3) 梗塞周辺の可逆的病変部への高分圧酸素供給を維持し、 4) 不可逆性梗塞病変の範囲を最小限に止めることによると説明されてきました。

  しかし5回以上の高気圧酸素治療を試みた脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血、高血圧性脳出血および脳梗塞の合計94例中、68 (72%)には神経学的所見に何等かの改善を得たが、致死的発作または遷延性昏睡などに移行する最重症例を除き、大多数は急性期の経過後には何等かの神経学的改善を示すことからみて、他の適切な治療が行われている限り、高気圧酸素治療が脳血管障害の治療成績に与える影響は小さく、しかも高気圧酸素治療による頭蓋内圧の低下はグリセオールなどの作用に比して遙かに弱く一過性で、減圧終了後には逆に上昇し、更に急性期脳血管障害患者の脳血流量は2ATAを超える酸素吸入では逆に増加に転じ、可逆的な脳虚血、脳浮腫および頭蓋内圧亢進状態には有効であったが、その効果は一時的で、予後の改善に役立つか否かは疑問と結論した大田ら(1985)の成績は、急性期脳血管障害に対する高気圧酸素治療の奏効機序に関する従来の見解に対して重大な疑問を提起した成績として重要であります。

  急性期脳梗塞に高気圧酸素治療が有効とした報告の多くは効果の判定に客観性を欠き、また高気圧酸素治療を行わなかった対照群との比較も行われていません。現在まで急性期脳梗塞に対する高気圧酸素治療の効果を科学的に証明した報告はありません。有効性が証明されていない疾患の効果判定の時期は存在しません。また多くの報告で治療の直前、直後の頭部CT所見には差異を認めておりません。

[文  献]

1)大田英則、川村伸悟、根本正史ほか:脳血管性障害に対する高気圧酸素療法-その効用と限界-.日本高気圧環境医学会雑誌  20:185-194,1985.

        (平成7年7月)


5-Q6:高分圧酸素によって細菌の増殖が抑制されるとすれば、高分圧酸素耐性菌は報告されていますでしょうか。

A6:多細胞生物と同様、単細胞微生物である細菌も高分圧酸素に対して二相性の反応を示します。好気性菌の培養に使用するブイヨン培地の表面に接する気相の酸素分圧が4501000mmHg(0.61.3ATA)の範囲にあればジフテリア菌Corynebacterium diphtheriae、大腸菌Escherichia coli, 緑膿菌Pseudomonas aeruginosaおよび黄色ブドウ球菌Staphylococcus aureusなどの増殖は促進され(Ollodart,et al.1965,Ollodart.1966,Gottlieb,et al.1974 a,1974 b)、培地に接する気相の酸素分圧が1000mmHgを超えると細菌の増殖は抑制されます。質問には“高分圧酸素によって細菌の増殖が抑制される”とありますが、正しくは“1000mmHgを超える高分圧酸素は細菌の増殖を抑制する”とご理解下さい。     

  一般的に1〜2kgf/G(2〜3ATA)以上の高分圧酸素に耐性を有する細菌の新しい系を作成することは困難とされていますが(Gottlieb.1971)、高分圧酸素耐性菌を作成した報告もあります。1ATAの酸素中で培養したAchromobacter P6は、1ATAの空気中で培養されたP6に比して、1ATAの酸素環境における細胞呼吸が高度に維持されていました(Gottlieb.1966 )。これはP6が酸素耐性を獲得したことを意味します。

  超酸化物不均化酵素superoxide dismutase(SOD)は酸素の毒性の防御に重要な役割を演ずる酵素ですが、酸素は種々の細菌のSODを増量します。嫌気性環境で培養したStreptococcus faecalis に比して、20ATAの酸素環境で培養したS.faecalisのSODは16倍に増加し、Escherichia coli Bも嫌気性環境から5ATAの酸素環境に移せばSODは25倍に増加します。100% 酸素環境で培養され、したがってSOD の増加したS.faecalis46 ATAの酸素に耐性を示し、E.coli B50ATA の酸素に耐性を示しました(Gregory,et al.1973 a)。ただし酸素はすべての細菌の SODを増加せず、例えばBacillus subtilisではSODは増加しません(Gregory,et al.1973 b)。SODのほか酸素は過酸化水素分解酵素catalaseも増量し、酸素耐性獲得の機序は、これら酵素の増量によると思われます。詳細は文献に譲りますが、これらは細菌を使用した酸素毒性の研究で、酸素耐性を獲得した細菌の継代培養などの報告はありません。

[文  献]

1)Gottlieb, S.F. : Bacterial nutritional approach to mechanism of oxygen toxicity. J. Bacteriol. 92 : 1021-1027, 1966.

2)Gottlieb, S.F. : Effect of hyperbaric oxygen on microorganisms. Ann. Rev. Microbiol. 25 : 111-152, 1971.

3)Gottlieb, S.F., J.A.Solosky, R.Aubrey and D.D.Nedelkoff : Synergistic action of increased oxygen tensions and PABA-folic acid antagonists on bacterial growth. Aerosp. Med. 45 : 829-833, 1974 a.

4)Gottlieb, S.F., J.A.Solosky, R.Aubrey and D.D.Nedelkoff : Synergistic action of increased oxygen tensions and sodium sulfisoxazole on some gram positive bacteria. In : Fifth International Hyperbaric Congress Proceedings. eds. by W.G.Trapp, E.W.Banister, A.J.Davison and P.A.Trapp. Simon Fraser University, Burnaby, B.C,Canada,  pp.577-583, 1974 b.

5)Gregory, E.M. and I. Fridovich : Induction of superoxide dismutase by molecular oxygen.  J. Bacteriol. 112 : 543-548, 1973 a.

6)Gregory, E.M. and I. Fridovich : Oxygen toxicity and the superoxide dismutase.J. Bacteriol. 114 : 1193-1197, 1973 b.

7) Ollodart, R.M. and E. Blair : High pressure oxygen as an adjunct in experimental bacteremic shock. J.A.M.A.191 : 736-739, 1965,

8)Ollodart, R.M. : Effects of hyperbaric oxygenation and antibiotics on aerobic microorganisms. In : Proceedings of the Third International Conference on Hyperbaric Medicine. eds. by I.W.Brown,Jr.and B.G.Cox. Pub.1404, National

9)Acad. Sci.-National Research Council, Washington, D.C.,pp.565-571, 1966.

        (平成7年7月)


5-Q7:高気圧酸素治療はメニエール症候群に有効でしょうか。もし有効とすれば、どのような奏効機序によると考えられますでしょうか。

7:耳鳴、難聴などとともに眩暈発作を示し、剖検で内耳半規管に異常を認め、他に中枢神経系病変を認めなかった症例をメニエール(1861) が発見したことに因んで、耳症状を伴う原因不明の眩暈をメニエール症候群と呼びましたが、検査法の進歩と剖検例の増加に伴って、メニエール症候群の患者中には独立した疾患と考えるべき症例群の存在することが着目され始め、これをメニエール病と呼ぶようになりました。多くは青年期または壮年期に発症し、眩暈発作に悪心、嘔吐を伴います。耳鳴、難聴などの耳症状は多くの場合に片側性で眩暈発作時に増悪し、発作の消退とともに軽快します。難聴は内耳の障害で、長期にわたる発作の反復によって内耳機能は低下します。

  内リンパ水腫による膜迷路の全体的な拡張との関連が指摘されていますが、原因および眩暈の発生機序は解明されていません。したがって現在、行われている治療は経験に基づく対症療法で、迷走神経系を介する消化器症状に対してはアトロピンまたはスコポラミンが、また前庭系症状に対しては抗ヒスタミン剤が投与され、更に全身的な鎮静のためにはバルビツール酸剤が使用されています。重症例には前庭神経切断術が、また極度の聴力低下例には迷路摘出も試みられてきました。

 ご質問は、眩暈発作頻発例に対する星状神経節ブロックの試みに関連して、高気圧酸素治療にも類似の効果を期待できないかという趣旨と推測されますが、病因が不明で治療も対症療法に限られている現状において、高気圧酸素治療がメニエール病に有効であると判断できる根拠は全くございません。

  メニエール病に対する高気圧酸素治療の効果の検討に異論を挿む余地はありませんが、同一の病態を動物に作成することは至難でしょう。もし臨床的検討を行うのであれば、患者の同意その他、新薬の臨床治験と全く同様の手続きを必要とすることは当然です。なお、この場合は研究ですから社会保険診療の給付対象にならないことも当然です。

        (平成7年7月)


5-Q8:高分圧酸素吸入による組織血流量の減少を防止する臨床的手段はありますでしょうか。

A8:高分圧酸素吸入による組織血流量の減少は、高分圧酸素吸入による心拍出量の減少によって招来される現象ですが、質問の趣旨を、高気圧酸素治療による酸素の供給量の増加が組織血流量の減少によって相殺される現象を防止する方法と理解して回答します。

  健常な動物または人に高分圧酸素を吸入させた場合、動脈圧および静脈圧は変動せず、また1回心拍出量にも有意の変化を認めず、単位時間当たりの心拍出量(通常は分時心拍出量)の減少は単位時間当たりの心拍数(通常は分時心拍数)の減少すなわち徐脈によるとする見解が一般に認められております。この現象は酸素による末梢血管抵抗の上昇とも説明されていますが、また過剰な酸素による障害を防御する合目的的な生体防衛反応とも推論されています。4ATA、90分間の酸素吸入によって分時心拍出量は25%減少しますが、酸素需要の大きい脳への血流量が主体を占める大動脈弓部血流量の減少が13%であったのに対して、相対的に酸素需要の少ない下行大動脈以下の血流量が32%も減少した成績(Hahnloser,et al.1966)は、この推論の妥当性を示唆する成績であります。

  また前記の推論を裏付ける成績として、高分圧酸素吸入による血管抵抗の上昇は低酸素症に陥っていない健常部に限られ、低酸素症の存在する局所血管抵抗は逆に低下し、低酸素症の改善に伴って局所血管抵抗は正常に接近し始めます(Kawamura,et al 1978) 。この報告は、低酸素症の存在する部位では高気圧酸素治療による酸素供給量の増加は血管抵抗の上昇によって相殺されないことを実証し、高気圧酸素治療の低酸素症改善機序を実験的に解明した成績として重要です。

[文  献]

1) Hahnloser,P.B., E.Domanig, E.Lamphier and W.G.Schenk,Jr. : Hyperbaric oxygenation : Alterations in cardiac output and regional blood flow. J. Thor. Cardiovasc. Surg. 52 : 223-231, 1966.

2) Kawamura, M., K.Sakakibara and T.Yusa : Effect of increased oxygen on peripheral circulation in acute, temporary limb hypoxia. J.Cardiovasc. Surg. 19 : 161-168, 1978.

        (平成7年7月)


5-Q9:高気圧酸素治療前のインフォームド・コンセントは、どのように実施すればよろしいでしょうか。特に救急患者の場合、どのように実施するのでしょうか。

A9:インフォームド・コンセントは情報に基づく同意を意味します。あらゆる医療行為は事前に十分な情報を提供して説明を行い、その説明を完全に理解した患者の同意を得た後に行わなければなりません。高気圧酸素治療のインフォームド・コンセントについては日本高気圧環境医学会『高気圧酸素治療の安全基準(平成6年1110日改正)』第30条に規定されているので、その内容を要約します。

  高気圧酸素治療の場合、インフォームド・コンセントの前提として治療を安全に行い得ることを確認しなければならない。そのため高気圧酸素治療について熟知した医師の指示によって全身状況、呼吸器、循環器および耳管・副鼻腔などの状況を正確に把握するために必要な検査とともに、各患者の既往および現疾患からみて特に注意を要する問題点に関する検査も行わなければならない。                                         

  これらの検査によって高気圧酸素治療を安全に行い得ることを確認した後、高気圧酸素治療を熟知した医師が患者に対して、 1) 高気圧酸素治療の概要、 2) その患者の場合の高気圧酸素治療の奏効機序、 3) 高気圧酸素治療を行う理由、 4) 高気圧酸素治療後の症状の経過予測、 5) 発生する可能性のある副作用、合併症および事故と、それらの予防対策などについて患者に容易に理解できるよう詳細に説明するとともに、 6) 患者が希望すれば、何時でも高気圧酸素治療を中止して他の治療法に変更できることなどを明確に説明し、文書によって患者の同意を得た後でなければ高気圧酸素治療を開始してはならない。患者の病状その他の理由によって患者本人の同意を得ることができない場合は、患者に代わり得る家族もしくは親権者などの文書による同意を得なければならない。

  緊急な治療が必要で、前記の全検査を完了できずに治療を開始しなければならなかった場合、治療に関する説明を行わずに治療を開始しなければならなかった場合または文書による同意を得ることができずに治療を開始しなければならなかった場合は、できる限り早期に残る検査を行って安全に治療を行い得ることを確認し、できる限り早期に十分に説明を行って同意を得なければならない。

        (平成7年7月)


7-Q1:イレウスの治療の効果判定は、高気圧酸素治療の何回目まで行えばよろしいでしょうか。

A1:イレウスに限らず、また高気圧酸素治療に限らず、すべての疾患において、現在、行っている治療が患者にどのような影響を与えているかを詳細、かつ的確に把握することは、あらゆる医療従事者の義務です。まして高気圧酸素治療は極めて異常な環境を患者に強制する治療法でありますから、治療を行っている間は、病態に対する影響だけでなく、患者の全身状態についても常に完全に掌握されていなければなりません。

  したがって質問の趣旨を「イレウスに対する高気圧酸素治療は、通常、何回目位までには有効か無効かを判定できるか」と理解して回答します。

  初期に3ATA・90分及び2ATA・75分の治療を1日各1回、施行し、腸雑音聴取後は全身状況を考慮しつつ2ATA・75分の治療に切り替えた自験例によれば、主として開腹術などの術後消化管麻痺が遷延して発症した術後麻痺性イレウスの場合、イレウスの継続期間が1〜8日(平均 3.8日)の症例が全体の2/3を占め、これらは最初の高気圧酸素治療中または治療直後までに強勢な腸雑音の聴取が可能になるとともに排ガスまたは排便を認め、治療回数は1〜6回(平均2回)で、すべて全治しました。また全症例の1/4はイレウス継続期間が2〜13日(平均 5.4日)でしたが、これらの症例も2〜15回(平均8回)の治療で蠕動を回復しました。無効例はイレウスが14日以上続き、全身状態が極度に悪化して転医搬送されてきた死亡直前の症例(5%)だけで、解除率は95%でした(伊藤.1983)。機械的イレウス特に癒着性イレウスも、多くは高気圧酸素治療によって解除できますが(古山ら、1987)、絞扼性イレウスは手術によるしか解除できない場合が多く、高気圧酸素治療を漫然と継続することは危険で、早期に手術を考慮すべきです。        

[文 献]

1)伊藤定雄:麻痺性イレウスに対する高気圧酸素治療の臨床的研究.日本高気圧環境医学会雑誌  18 : 9-18, 1983.

2)古山信明ほか: 術後イレウスに対する高気圧酸素療法. 日本高気圧環境医学会雑誌  22 : 141-145. 1987.

        (平成8年7月)


7-Q2:当院では現在、1.5時間の条件で高気圧酸素治療を行っていますが、治療時間は1時間でなければならないのでしょうか。

A2:高気圧酸素治療の最も危険な合併症は酸素中毒、特に中枢神経系酸素中毒です。したがって高気圧酸素治療は、中枢神経系中毒を防止するため、必要にして最低の治療圧力と、必要にして最短の治療時間を選択して行わなければなりません。2.21ATA(水深40ft.)、水温65°F(18.3 )で酸素を吸入した健常成人の被験者70名のうち、運動負荷群39名中33名(85%)、運動無負荷群31名中9名(29%)が60分までに中枢神経系中毒症状を呈して、酸素吸入の中止を要した潜水実験の成績(Donald.1947) は、そのまま高気圧酸素治療に適用はできないとしても、2ATAを超える高分圧酸素吸入が常に中枢神経系中毒の危険を伴うことを示唆する点で重要です(榊原.1993)。

 この見地から見るとき、患者の状態によっては2ATAを超える治療圧力と60分を超える治療時間を選択しなければならない場合が存在することは当然ですが、すべての治療に無批判に2ATAを超える治療圧力と、60分を超える治療時間を選択することは、高気圧酸素治療の安全確保のために絶対に許容されるべきではありません。

 日本高気圧環境医学会の「高気圧酸素治療の安全基準」第83条第1項第1号に、第1種装置の常用治療圧力を2絶対気圧とし、同第3号に治療時間を原則として60分と規定しているのは、このためです。なお、この『治療時間』は高気圧作業安全衛生規則に規定されている『高圧下の時間』とは異なります。前者は加圧を終了して治療圧力に到達してから、減圧を開始するまでの一定圧を保持する時間ですが、後者は加圧を開始した時から減圧を開始する時までの時間と規定されています。前者に加圧の時間が含まれていない理由は、設定された治療圧力で、設定された治療時間の間、高分圧酸素吸入を継続することに高気圧酸素治療の本質的な意義があるからです。両者が異なることに注意を要します。

[文 献]

1)Donald,K.W. : Oxygen poisoning in man. Part 1 Brit.Med.J.1: 667-672, 1947.

2)榊原欣作:高気圧酸素治療の副作用、合併症および事故と、その対策。日本高気圧環境医学会雑誌 28 : 243-270, 1993.

3)日本高気圧環境医学会:第7章  治療指針.高気圧酸素治療の安全基準(平成7年1116日改定).日本高気圧環境医学会雑誌  30 : 129-143, 1995.

        (平成8年7月)


7-Q3:高気圧酸素治療安全協会が主催した鹿児島の講演会で、講師のスライドの中に顔面麻痺が適応として挙げられていましたが、中耳炎の術後合併症で入院中の患者にも有効なのでしょうか。

A3:ご質問の顔面麻痺を末梢性の顔面神経麻痺と理解します。名古屋大学の多数の臨床経験と広汎な研究(柳田ほか, 1972. 村橋,1988 )によって、突発性難聴に対する高気圧酸素治療の効果が実証されました。この研究の中で顔面神経麻痺に有効例が多いことも確認されました。中田(1986)Bell麻痺60例、Hunt症候群6例に優秀な成績を報告しています。ただし中枢性の顔面神経麻痺は、その病因からみて有効とは考えられません。

 質問の中耳炎の術後合併症が、どのような合併症であるのか明確でないので正確な回答はできませんが、通常の酸素投与によっては改善できない低酸素症を原因とする合併症であれば、有効な場合もあるかも知れません。しかし低酸素症を主な機序とする中耳炎術後合併症は恐らく稀でしょう。また気圧の変動は健常な中耳および内耳にもに大きな影響を与えることに加えて、中耳の炎症性病変が耳管にも波及して、中耳腔と外界との均圧が障害されている場合もありますので、原疾患である中耳炎および合併症の病態によっては、逆に悪化させる原因になり得る可能性もあることを忘れてはなりません。

[文 献]

1)柳田則之ほか:突発性難聴に対する高気圧酸素治療.日本高気圧環境医学会雑誌  7 : 6-7  1972.

2)村橋けい子 : 突発性難聴に対する高気圧酸素治療法-その治療効果と限界-.日本高気圧環境医学会雑誌  23 : 77-82, 1988.

3)中田将風  : 顔面神経麻痺の高気圧酸素療法.日本高気圧環境医学会雑誌21 : 99-103, 1986.

4)柳田則之 : 耳気圧外傷の基礎とその臨床.第95回日本耳鼻咽喉科学会総会宿題報告.名鉄局印刷,名古屋,1994.

        (平成8年7月)


7-Q4:重症熱傷患者に高気圧酸素治療を行うとき、活性酸素はどのように影響しますでしょうか。

A4:生体のあらゆる細胞に対して酸素は毒として作用します。その本質的な機序は、細胞の代謝に関与する酵素群が、活性酸素その他のフリーラディカルによって障害される機序で、この障害を酸素中毒と総称します。酸素中毒は高気圧酸素治療の最も危険な合併症で、特に中枢神経系の酸素中毒は完全に防止されなければなりません。したがって高気圧酸素治療においては、活性酸素の動向は重要です。

 熱傷に対する高気圧酸素治療において、活性酸素の変動或いは中枢神経系酸素中毒を検討した研究は少ないのですが、気道熱傷を合併する4例を含む8例の熱傷患者に2ATA・90分の高気圧酸素治療を行い、治療前後の動脈血漿マロンダイアルデハイド malondialdehydeと呼気中の過酸化水素に有意差が認められなかった成績と、気道熱傷の有無によって治療前の両指標に有意差がなかった成績に基づいて、特に肺に対する活性酸素の影響は認められないと結論した報告(Grim,et al.1989)、気道熱傷に成人呼吸促迫症候群を合併した重症熱傷患者に高気圧酸素治療を行って酸素中毒を認めず、人工呼吸管理下に高気圧酸素治療を行った10例は平均 5.3日で人工呼吸から離脱でき、入院期間が30.5日だったのに対して、対照群では26日の人工呼吸管理と75.6日の入院を要した成績 (Ray, et al.1991)などからみて、他の疾患に対すると同様、2ATA・6090分程度の通常の治療条件から逸脱しない限り、熱傷に対する高気圧酸素治療も、顕性の酸素中毒症状を惹起することなく安全に実施できると考えてよいでしょう。

 ただし温度の上昇は酸素の毒性を増強します。熱傷に限らず、高熱の患者に高気圧酸素治療を行う場合は、治療圧力と治療時間の選択に慎重な配慮が必要です。

[文 献]

1)Grim,P.S.,et al.: Lack of measurable oxidative stress during HBO the rapy in burn patients. Undersea Biomed.Research 16 Supp1.22-23,1989.

2)Ray,C.S.,et.:Hyperbaric oxygen therapy in durn patients : Cost effective adjuvant therapy. Undersea Biomed, Research 18 Suppl.77-78,1991.

        (平成8年7月)


7-Q5:高気圧酸素治療を行う部屋の位置と広さは、どの位必要でしょうか。また同じ部屋に複数の装置を設置できますでしょうか。

A5:「高気圧酸素治療の安全基準」(以下『安全基準』)と日本工業規格「高気圧酸素治療装置」JIS T 7321-1989 によって、わが国では高気圧酸素治療装置(以下『装置』)は第1種装置と第2種装置に区分されています。『安全基準』第3章は装置を設置する場所に関する規定で、第10条第1項(耐火構造)、第11条(防火戸)、第12条(消火設備)、第13条(警報設備)は、すべての装置に共通の規定で、第10条第2項(基礎構造)は第2種装置の規定です。部屋の位置と広さについては規定はありません。

 部屋の位置は装置を使用する主な目的によって選んで下さい。術後または重症患者が主な対象であれば、手術室または ICUに近接した位置が好適で、感染症または外来患者が主対象であれば、手術室、ICUなどの清潔区域を汚染しない配慮が必要です。

 第1種装置を設置する部屋の広さは、装置の形状と寸法によって異なります。国産の装置に比して、海外の装置は一般に大型です。装置出入口(扉)の開閉に要する床面積も装置の寸法によって異なります。搬送患者のために、装置出入口に輸送車を直列に位置させる空間も必要です。ガス分析装置、心電図・脳波などの生体電気現象監視記録装置などを設置する場合は、そのための床面積も必要なほか、勿論、職員が治療に従事する空間は不可欠です。患者の着衣変更のための区画も設置しなければなりません。着衣変更の区画は別として、国産の装置1基を設置する場合は奥行5m、幅4m程度、海外の装置では奥行6m、幅4m前後が最低限、必要でしょう。

 同一室内の複数の装置で、同時に行っていた治療を一人だけの職員に管理させていて、火災を発生した事例もあります。同一室内に複数の装置を設置することは妨げませんが、同時に複数の患者を治療する場合は、装置1基について一人以上の職員を配置して治療を行わせることが医療機関の義務(『安全基準』第19条第4項)であり、治療中は確実な監視を一瞬も怠らないことが職員の義務(『安全基準』第24条第6号)であります。                                                                                                                               

[文 献]

1)日本高気圧環境医学会:高気圧酸素治療の安全基準(平成7年1116日改正).日本高気圧環境医学会雑誌 30 : 129-143, 1995.

2)日本工業規格  高気圧酸素治療装置  JIS T 7321-1989 平成元年6月1日制定

        (平成8年7月)


7-Q6:第2種装置の加圧に使用する空気として、空気圧縮機によって造成された圧縮空気と、人工空気のいずれを選ぶべきでしょうか。人工空気に利点はありますでしょうか。

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